เข้าสู่ระบบ嵐が去った後の分娩室は、まるで墓場のような静寂に包まれていた。
ズタズタに引き裂かれた高級な壁紙、粉々に砕け散った窓ガラス。その惨状の真ん中で、熟練の助産師であるマサはガタガタと膝を震わせながら、かろうじて床に手をついていた。 「お、奥様……公爵様……。一体、何が……」 マサの声はかすれ、恐れに満ちていた。 公爵アレクシスは荒い息を吐きながら、我が子を抱く腕に激しい悪寒を感じていた。 先ほどまでの神聖な銀髪は影も形もない。夜の闇をそのまま切り取ったかのような禍々しい漆黒の髪。そして、ゆっくりと閉じられた瞼の奥にあるのは、血のように不吉な深紅の瞳。 「あなた……この子は……本当に、私たちの子供なの……?」 ベッドに横たわる妻エレノアは青ざめ、ショックのあまり震える手で胸元を固く握りしめていた。涙がその美しい頬を伝い落ちる。 本来であれば、ヴァルハイト公爵家の直系として、輝く銀髪と澄んだ銀瞳を称える麗しい名前が贈られるはずだった。誕生の数ヶ月前から、ふたりで夜を徹して考え抜いていた愛おしい名前が。 しかし――アレクシスは言葉を詰まらせた。 「……名付けなど、できん」 「公爵様……!?」 「見ろ、この髪を! この瞳を! まるで……まるで悪魔に取り憑かれているようではないか!」 吐き捨てるようなアレクシスの声に、部屋の隅に控えていた若いお世話係のメイド、マルタが小さく悲鳴を上げて息を呑む。 マナの暴走自体は収まった。赤子は今、何事もなかったかのように静かに息を立てて眠っている。だが、その小さな身体から放たれた狂暴な魔力の余韻は、この部屋の空気ごと凍りつかせていた。 「マルタ」 アレクシスが低く冷たい声でお世話係を呼ぶ。 「は、はいっ! 公爵様!」 「この子を……離れへ運べ。本邸の者たちの目に触れぬよう、奥の古い館に隔離するのだ」 「そんな……! アレクシス様、いくらなんでも赤ちゃんを離れにだなんて!」 エレノアが叫ぶが、その瞳には愛おしさ以上に、我が子に対する得体の知れない恐怖が色濃く差していた。 「エレノア、正気を保て! あれはただの赤子ではない! 我が一族の威信を、いや、領地全体を崩壊させかねない不吉の塊だ!」 アレクシスは冷酷に言い放つと、眠る赤子をマルタの手へと押し付けた。 マルタは恐怖で腕を震わせながらも、小さな赤子を恐る恐る受け抱く。 名前すら与えられず、祝福の鐘も鳴らされず。生まれ落ちたその日に、赤子は公爵家の歴史から存在を消されることとなった。 「……行きなさい、マルタ」 「はい……失礼いたします……」 マルタは頭を下げ、逃げるように惨状と化した分娩室を後にした。 腕の中で静かに眠る、黒髪の赤子。 マルタは離れへと続く冷たい廊下を歩きながら、胸の奥で言い知れぬ寒気に震えていた。 この名もなき赤子が、やがて世界を揺るがす漆黒の異形となることを、この時の屋敷の者はまだ誰も知る由もなかった。 本邸から遠く離れた、埃っぽい古い離れの一室。 マルタは硬いベッドへ恐る恐る赤子を寝かせると、安堵の溜息を漏らした。 その時だった。 気配に気づいたのか、赤子がふうと小さな息をつき、静かに重い瞼を開いた。 「っ……!」 マルタは思わず息を呑んだ。 薄暗い室内で、月光を反射して怪しく光る深紅の瞳。 不吉、悪魔の目、そう叫んで遠ざけた公爵たちの言葉が頭をよぎる。だが……間近でじっと見つめ返されているうちに、マルタの心に奇妙な感覚が芽生え始めた。 (……綺麗……) 恐ろしいはずのその瞳は、まるで洗練された極上のルビーのように深く、吸い込まれそうなほどに危うい美しさを秘めていた。毒だと分かっていても目を離せなくなるような、不思議な魔力。 その妖艶さに心を奪われかけ、呆然と立ち尽くしていた、その時。 「あー……」 小さな小さな手が伸ばされ、マルタの頬に触れたかと思うと、そのまま彼女の髪をぎゅっと引っ張った。 「痛っ……あ、ふふっ」 引っ張られた痛みに、マルタははっと正気に戻った。 指を掴もうと小さくもがく手、無垢に揺れる瞳、かすかに温かい吐息。 (……なにも、恐ろしいことなんてない) あの部屋を破壊した狂暴な魔力の暴走すら、まるで悪い夢だったのではないかと錯覚してしまうほどだ。 髪の色が黒かろうと、瞳が赤かろうと、よく見れば――いや、よく見ずとも、ただそこにいるだけで守ってあげたくなるような、可愛らしい普通の赤ちゃんだった。 「ひどいお父様とお母様ね。こんなに可愛いあなたを、悪魔だなんて……」 マルタの表情から恐怖が消え、温かな笑みがこぼれ落ちる。 髪を引っ張る小さな手を優しく包み込みながら、マルタはそっと語りかけた。 「あのお屋敷の誰も呼んでくれないなら……私が、素敵な名前をつけてあげようかしら。ふふ」 冷え切った離れの部屋に、はじめて小さな優しさが灯った瞬間だった。王城の最深部、ひんやりとした重苦しい空気が漂う地下古結界ライン。松明の小さな炎が揺れる石造りの地下道を進むのは、ライネル、ルシエラ、そして大結界の再構築にあたるため同行していたエルミナの三人だった。壁面に彫られた古代文字と、地脈を巡る魔導の回路。本来ならば神聖な光を放っているはずのラインは、黒ずみ、まるで壊死した血管のように不吉に脈打っている。「これが……王都の地脈……。ひどい、こんなに魔力が濁って……」エルミナが壁にそっと手を触れようとした、その時だった。「――っくあ……あぁぁぁっ!?」突如、エルミナが胸を掻きむしり、その場に激しく膝をついた。「エルミナ!?」ライネルが慌てて駆け寄ろうとするが、彼女の全身から放たれた衝撃波のような神聖光に阻まれ、踏み込むことができない。「う、あぁぁぁ……ッ! 頭が……胸が、熱い……っ!!」苦痛に顔を歪め、喘ぐエルミナ。その瞬間、彼女の背中――法衣の破れ目から、眩いばかりの純白の光が弾けた。メリメリと音を立てて空間が歪み、彼女の背中から生え伸びたのは――白銀の光を纏った、美しくも神聖な『四枚の天使の羽』だった。「羽……!? 天使の羽が、四枚も……!?」ライネルが息をのむ。ルシエラは、その神聖な輝きと四枚の羽を目にした瞬間、胸の奥を激しい衝撃で貫かれたような感覚に襲われた。(この羽……この光の波動……知っている。私、前世の記憶の中で、この羽を見たことがある……!)前世の大天使として、果てしない時を生きてきたルシエラ。その広大な記憶のどこかに、確かにこの四枚の羽を持つ存在がいた。だが、どれほど記憶の糸を手繰り寄せようとしても、モザイクがかかったように名前と顔が思い出せない。あまりにも大きく、あまりにも重要な記憶だからこそ、何らかの強烈な封印が記憶の根底に施されているかのように。「……あ、危ない……っ!」羽を生やしたエルミナが、虚ろな、けれど異次元の深遠さを感じさせる声で呟いた。それはいつもの可愛らしい少女の声ではなく、エルミナの中に秘められた「古の天使」の意志そのものの警告だった。「ここは……危ないわ……っ! 早く……早く離れて……! 奴は……奴の『目』は、もうすぐそこに……っ!!」その言葉と同期するように、ルシエラの魂もまた凄まじい悪寒に震えた。
雪深い山道を抜け、魔導馬車はついに王国の心臓部――王都『グラン・ルミナス』の巨大な外郭門へと差し掛かっていた。 かつては白亜の石壁と金色の装飾が眩いばかりに輝いていたとされる王都の門。だが、近づくにつれて二人の目に飛び込んできたのは、重苦しくどんよりとした灰色の空と、寒風に混じる微かな「澱み」だった。 「……これが、王都……」 窓から外を覗き込んでいたエルミナが、息をのむ。 門の前には、幾重にも張り巡らされた神聖騎士団の検問と、身寄りを失った避難民たちの列が続いていた。全滅した聖職者たちの穴を埋めるべく、各地方から召集された聖導士や修道士たちの姿も目立つ。 一見すると、急ピッチで復興が進められている活気ある光景に見える。 だが、馬車の天井に腰かけていたマルタが御者席から小さく咳払いをし、車内へ向けて低く声をかけた。 「お嬢様、ライネル殿下。……街を包む空気が、いささか奇妙でございます」 「ああ、分かっている」 ライネルは窓の隙間から外を鋭い眼差しで見つめた。 「警備の数は異常なほど多いが……騎士たちの眼光に生気がない。まるで、見えない疲弊と恐怖に内側から苛まれているようだ」 「それだけじゃないわ、ライネル君」 ルシエラは胸元にそっと手を当て、深紅の瞳をうっすらと細めた。 大天使としての記憶と感性が、王都の地表を突き抜け、その遥か深層から伝わってくる「歪み」を捉えていた。 (学園や公爵邸で感じた極彩色の魔力……。それらが全て、この王都の地下水道や古の結界のラインに沿って、巨大な『網』のように張り巡らされている……!) 学園での騒動も、ヴァルハイト公爵邸での使用人失踪も、すべてはこの巨大な網を完成させるための「養分集め」に過ぎなかったのだ。王都全体が、すでに悪魔の巨大な孵化器と化しかけている。 「……ライネル殿下! ルシエラお嬢様!」 検問を仕切っていた神聖騎士団の隊長が、王家の紋章が入った馬車に気づき、慌てて駆け寄ってきた。馬車が停まり、ライネルが扉を開ける。 「ご到着を心よりお待ちしておりました! 国王陛下より拝命しております。ライネル殿下とルシエラ様、そして特命聖女のエルミナ様を、ただちに王城の特別応接室へとご案内いたします!」 「苦労をかける。街の状況はどうなっている?」 ライネ
重厚な鉄の扉が静かに開き、ライネルたち一行は王城の最深部――接見の間へと足を踏み入れた。 高く聳え立つ天井、壁面に飾られた歴代国王の絵画、そして床に敷き詰められた深紅の絨毯。一見すると王国の威信を示す絢爛豪華な空間だが、ルシエラとライネルの肌には、目に見えない異様な「重圧」が刺さるように伝わっていた。 玉座に鎮座していたのは、ライネルの父であり、この王国の頂点に立つ国王レオンハルトだった。 「――よくぞ戻った、ライネル。そしてルシエラ嬢、遠路はるばる大義であった」 レオンハルトの声は低く、重厚に響いた。 だが、その顔色はどこか底暗く沈み、深く刻まれた眉間のシワが隠しきれない疲弊を物語っている。 「父上。王都の惨状、道すがら拝見いたしました。教会組織の壊滅による防壁の低下……事態は一刻を争うかと」 ライネルが片膝をつき、恭しく頭を下げながら切り出す。 「うむ……。教会が機能を失った今、王都を包む神聖結界は日ごとに弱まりを見せている。夜ごと発生する不審な失踪や住民の異常行動も、すべて結界の綻びから漏れ出す不浄な魔力が原因だ」 レオンハルトの視線が、ライネルの隣で慎ましやかに控えていたエルミナへと注がれた。 「……そちらの少女が、学園で目覚ましい聖光を示したという『エルミナ・レーヴェン』か」 「はい、陛下。エルミナ・レーヴェンにございます」 エルミナは法衣の裾を優雅に整え、完璧な礼を捧げた。その動作には一点の綻びもなく、ただ純粋な神聖さが溢れている。 「噂に違わぬ清らかな光だ。……エルミナよ、汝には王都の大聖堂に残り、全国から集められた聖導士たちの中心となって、壊れかけた大結界の再構築にあたってもらう。異論はあるか?」 「ございません、陛下。この身とこの力、王国の安寧のために捧げる所存でございます」 まっすぐに国王を見つめ、力強く答えるエルミナ。 その健気で高潔な言葉に、レオンハルトは満足そうに深く頷いた。……しかし、ルシエラは見逃さなかった。 国王の瞳の奥に、一瞬だけ走った「冷ややかな計算」の色を。 (……おかしいわ) ルシエラは胸の内で静かに警戒の糸を張り巡らせた。 愛する国と民を案じる一国の王の顔。だがその裏で、レオンハルトはエルミナという存在を、まるで「便利な道具」あるいは「あらかじ
学園を立ち渡る冬風が、積もった白雪を巻き上げていく。校門の前には、王都への移動のために特別に手配された大型の魔導馬車が静かに佇んでいた。車体に刻まれた王家の紋章が、冬の淡い陽光を受けて鈍く輝いている。「お嬢様、お召し物のお乱れはございませんか?」マルタが手際よく、ルシエラの首元に深紅のファーマフラーを巻き直した。幾重にも重ねられた防寒着の上からでも伝わるマルタの手の温もりに、ルシエラはふっと表情を緩める。「ありがとう、マルタ。……学園をしばらく離れると思うと、少し不思議な気分だわ」「ええ。ですが、どこへおいでになろうとも、私はお嬢様の影としてお支えするのみでございます」マルタは完璧な所作で一礼すると、馬車の後部に積まれた荷物の最終確認へと向かった。その視線の先では、見習い聖女の法衣に身を包んだエルミナが、見送りに訪れたセレス・オーガストと固く手を握り合っていた。「エルミナさん……王都での復興聖導隊の業務、期待しています。ですが、決してご無理はなさらないでくださいね。悪魔の残滓は、どのような隙を狙ってくるか分かりませんから」「はい、セレス先輩! 先輩から教わった聖法の基礎、向こうでも決して忘れません。学園のことは……よろしくお願いします!」「ええ。3年生として、そしてオーガストの名を継ぐ者として、この学園は私たちがしっかりとお守りします」先輩としての凛とした眼差しを送るセレス。かつて父を失い、洗脳に屈した悲劇の渦中にいた少女の面影はそこにはない。受け継いだ聖印のロザリオを胸に抱くその姿には、明確な責任と誇りが宿っていた。「さて……そろそろ出発の時刻だ」神聖剣『アルヴァ=クレイド』を腰に佩いたライネルが、馬車の扉を開けながら二人に声をかけた。「ルシエラ、エルミナ。乗り込んでくれ。王都までの道のりも、雪で荒れる可能性がある。気を引き締めていこう」「ええ、ライネル君」「はい!」二人は頷き、順に馬車へと足を踏み入れた。最後にマルタが御者席のとなりに座り、馬車は重々しい音を立てて車輪を滑らせ始めた。◇遠ざかっていく学園の白い屋根を、ルシエラは窓越しに見つめていた。入学した春の日のこと、洗脳に落ちて偽りの箱庭に囚われていた日々のこと、そしてライネルの手に握られた聖鈴の音色によって魂が覚醒したあの旧聖
選考試験から数日後。降る雪はさらに勢いを増し、学園の大聖堂は一面の白銀に包まれていた。厳かなパイプオルガンの音が白光の満ちる聖堂内に響き渡る。壇上に佇むエルミナは、王家からの特命によって仕立てられた純白の見習い聖女の法衣に身を包んでいた。その佇まいはあまりに神聖で、かつて悪魔の洗脳に怯えていた少女の面影はどこにもない。「エルミナ・レーヴェン。汝の比類なき聖光と、人々を救わんとする高潔な志を称え、本日より『王都復興聖導隊』の特命構成員として任ずる」派遣された神聖騎士団長から授与されたのは、王家の紋章が刻まれた聖銀のロザリオだった。「身に余る光栄でございます。この命と力、傷ついた王国と人々のために捧げます」深く頭を下げるエルミナ。その姿を見つめる列席者たちから、惜しみない拍手が送られた。聖堂の最後列。生徒たちの群れから少し離れた場所で、ライネルとルシエラはその光景を静かに見守っていた。「見違えるようね、エルミナ……」ルシエラは胸の前でそっと手を組み、どこか誇らしげに、そしてほんの少し切なさの混じった眼差しを向けた。「ああ。あのような澄み渡った気品を放たれては、彼女の素性を疑う者など学園にはもう誰もいないだろうな」ライネルは呟きつつも、視線は鋭かった。エルミナが聖女として認められ、王都へ招聘されること。それ自体は王国にとって計り知れない救いとなる。しかし、それは同時に――身元不明の強大な存在が、防壁の崩壊した王国の最深部へと、正式な手続きを経て足を踏み入れることを意味していた。(悪魔の罠か、あるいは神の導きか……。どちらにせよ、盤面は整ったというわけだ)「ライネル君、手紙の準備はできているかしら?」「ああ。父上(国王)にはすでに打診済みだ。『聖女エルミナの護衛および王都の神聖防壁の調査』の名目で、僕と君、そしてマルタの王都同行の許可は取ってある」ライネルは懐から、王家の朱印が押された渡航許可証を覗かせた。「学園という守られた箱庭の時代は、これで終わりだ。ルシエラ、これからは王都――王国の心臓部そのものが僕たちの戦場になる」「望むところだわ」ルシエラは深紅の瞳に凛とした決意の火を宿し、優雅に微笑んでみせた。「大天使としての前世の記憶、そしてルシエラ・ヴァルハイトとしての今。そのすべてを懸けて、
冬の厳しい静寂が学園を包み込む中、聖職者公募の一次選考が始まった。大聖堂の前庭には、志願した生徒たちが緊張した面持ちで一列に並んでいる。その先頭に立つエルミナは、白を基調とした見習い聖導師の法衣を身に纏い、まっすぐな瞳で試練の壇上を見つめていた。審査を執り行っているのは、王都から派遣された厳格な神聖騎士団の幹部たちだ。「――次、エルミナ・レーヴェン!」名を呼ばれたエルミナは、一度深く深呼吸をしてから静かに前へ進み出た。「提示された傷ついた聖石へ、汝の浄化の光を捧げよ」騎士が差し出したのは、魔物の毒によってどす黒く変色した神聖石だった。本来であれば熟練の神官が数時間をかけて慎重に浄化を行う代物だ。エルミナは静かに石へ両手をかざし、そっと目を閉じた。(私にできることを……傷ついた誰かのために)彼女の胸元から、温かく澄み渡る純白の光が溢れ出す。――フッ。一瞬だった。どす黒かった神聖石の毒気が瞬く間に霧散し、まるで生まれたてのように透き通った光を放ち始めたのだ。前庭を満たした圧倒的な神聖波に、審査員である騎士たちどころか、周囲で見守っていた生徒たちからも驚愕のどよめきが上がった。「な、なんという奇跡の輝き……! これほどの聖魔力を秘めた者が、学園に埋もれていたとは……っ!」騎士団長は震える手で羊皮紙に『特級合格』の印を押し、エルミナに向かって深く頭を下げた。その光景を、回廊の影から静かに見守る二人の姿があった。「圧倒的ね……。エルミナの聖女としての資質は、もはや疑いようがないわ」ルシエラは感嘆の吐息を漏らした。大天使としての記憶を持つ彼女から見ても、エルミナの光はあまりにも純粋で、洗練されていた。「ああ。これほどの力があれば、王都の教会再建の要として抜擢されるのは時間の問題だろう」隣に立つライネルは、神聖剣『アルヴァ=クレイド』の柄に手を置いたまま、冷静にその光景を分析していた。「だが、ルシエラ……これで終わりではない。むしろ、本当の盤面はここから動き出すんだ」「ええ、分かっているわ」ルシエラは深紅の瞳を細め、遠く王都の方向へと視線を向けた。学園での騒動を収め、ヴァルハイト公爵邸の異変を暴いた。しかし、それらはすべて、この巨大な王国を覆う不気味な暗雲の「ほんの表層」を撫でたに過ぎ







